約3年半前のある休日、いつものようにコーヒーを淹れようとした瞬間、マグカップを支えていた左手から力がふっと抜けていく感覚に気づきました。
立ち上がろうとすると片側だけ重く、言葉も少しかすれて「今日は少し疲れているだけだろう」と自分に言い聞かせましたが、数時間後に医師から「脳梗塞です」と伝えられ、生活の前提が静かに書き換えられました。
この体験は、「これからの運動をどう続けるか」という問いを、自分ごととして避けられない形で突きつけてきました。
この記事では、脳梗塞後のリハビリ運動を「頑張れない日が多かった一人の当事者」が、どのように今の生活に溶け込む形へ組み替えていったのかを、できるだけ具体的な体験とともに整理しています。
目標歩数や時間ではなく、「今日、体が動作に何回顔を出してくれたか」という筋
現在は、軽めの運動であれば日常の動きの中に自然に混ぜ込める程度まで回復していますが、そこに至るまでの過程で「自分は頑張る運動だと長続きしないタイプだ」とはっきり自覚しました。
そこで「運動は完了させなくてよい」「あとから再接続できる“身体参加フラグ”だけ残せばよい」という、自分なりの運動習慣の考え方をつくり、少しずつ検証してきました。
ここで扱う内容は、一般的な運動マニュアルではなく、「体がどのように動きに参加したがるのか」を観察しながら、自宅や職場での生活をどう組み替えていったかという個人的な試行錯誤の記録です。
同じように「やらなきゃ」と思いながら続かない人が、自分の生活に合わせて運動の意味づけを変えるヒントとして読めるよう意識してまとめています。
※本記事は、特定の運動による医療的な効果や治療・改善・再発予防を示すものではありません
※あくまで一個人が、担当医やリハビリ専門職と相談しながら日常生活の中で続けている運動との向き合い方をまとめた体験記です。実践する際は、必ずご自身の主治医や専門家と相談してください。
運動ルーティンの軸を「時間」から「筋再参加できる設計」へ変えた話
脳梗塞後の運動について情報を集めると、「1日何分」「週に何回」「何歩以上」といった時間や量の目安がたくさん紹介されています。
ところが、これをそのまま自分の生活に当てはめると、「今日も基準に届かなかった」という自己評価だけが静かに積み上がり、運動そのものが心理的な負担へ変わっていきました。
そこで「今日は何分やったか」ではなく、「今日は体が何回、運動に顔を出してくれたか」を数える方向に切り替えました。さらに、あえて少し物足りないところで区切りをつけることで、「明日も同じ場所から入り直せる状態」を残すことを意識するようになりました。
つまり運動を、「きっちり完了させるノルマ」から、「途中で止まっても後からつなげられる小さなフラグを集める作業」として捉え直しました。
この発想に変えてから、1回1回の運動に対するプレッシャーが弱まり、「今日は少しだけでも体が参加できたならOK」と考えやすくなり、心身のバランスを整えやすくなりました。
この考え方のもとでは、運動にはゴールテープのような終わりがありません。終わらせようとしないから「またつながるし」、つながり続けている感覚があるから「数日空いても戻りやすい」。
その結果、「今日は運動ゼロだった」という自己否定的なラベリングが、少しずつ自分の中から薄れていきました。
歩行を「距離」から「その日のステータス確認」に切り替える
一歩でも出れば成功
現在は、散歩を「何メートル歩いたか」「何歩達成したか」では評価していません。
玄関からポストまでの数十歩でも、体が一度でも歩行動作に参加できたなら、その日は「歩行フラグ1回が立った」として十分成功とカウントしています。
体調は日によって波があり、前日と同じ距離を歩けない日も少なくありません。
その状態で歩数や距離だけを厳密に追いかけると、「できなかった自分」にばかり目が向き、運動から心が離れていきやすいと感じました。
そこで自分の中で決めた歩行の基準は、「身体がその日に一度でも歩行動作に参加できたかどうか」です。たとえ途中で休憩を挟んでも、一歩でも踏み出せたことを「今日も体が生活に参加してくれた証」として、静かに喜ぶようにしています。
歩行中は「どこまで」ではなく「どんな一歩か」を観察
歩くときは、「今日はどこまで行けたか」を競う時間ではなく、「今日はどんな状態で一歩が出たのか」を確認する時間だと位置づけています。
たとえば、5分で疲れてしまった日は「今日はここまでがちょうどいい」と区切り、長く歩けた日は「今日は少し余力があるな」と眺めるだけにしています。こうして歩く行為そのものを、「その日の身体ステータスをチェックするための筋参加動作」として再定義しました。
具体的に歩くときに意識しているルールは、次のようなものです。
・連続で長く歩こうとしない(あらかじめ中断前提にする)
・速さを目標にしない(タイムや距離で評価しない)
・何メートルでも、途中で止まっても、歩行動作が1回出現したらその日は成功
・買い物や通勤などの「目的達成」より、歩行という筋参加体験が出現した事実を重く見る
・「たくさん歩けた自分を誇る」より、「また歩ける状態でいられるか」に関心を向ける
一般的なウォーキング記事は「多く歩くほど価値」という構造ですが、この記事では逆で「歩行動作の出現数 × 筋再参加できる余白」で価値を語っています。

方向筋参加型ストレッチ=「伸ばし切る前」で止めるやさしい動き方
筋肉の疲れやこわばりは、「ぐいっと伸ばした瞬間」だけでなく、同じ姿勢でじっと固まっている時間が長いほど悪化しやすいと感じています。
特にデスクワークやスマホ操作が増えた日は、何もしなくても首や肩がガチガチになりやすく、その上から強いストレッチをかけると、かえって怖さを感じることもありました。
脳梗塞後の自分の左肩や首は、リハビリの初期ほど「大きく一気に伸ばす」動きが怖く、「少しだけ動かす」ほうが安心できると感じる場面が増えました。
そこで、体が「この方向なら動けそうだ」とサインを出している方向に、数センチだけねじったり反らしたりし、気持ちよさを感じる手前で止める「方向筋参加型ストレッチ」というやり方に切り替えました。
たとえば、イスに座った状態で上半身をねじるときも、「背もたれまでねじり切る」のではなく、途中までゆっくり動かして3割くらいの位置で止めます。
こうすると、筋肉に急な負荷をかけずに、「今日はここまでなら気持ちいい」と体が許してくれる範囲を探りながら、少しずつ筋参加回数を増やしていくことができます。
方向筋参加型ストレッチの基本ルールは、「伸び切る前で止める」「痛みが出る手前でやめる」の2つだけです。1日に一度だけ大きく伸ばすよりも、仕事の合間や家事の前後に、数秒の小さなストレッチ筋参加を何度も挟むほうが、自分にとっては続けやすく、体の反応も穏やかでした。
方向筋参加型ストレッチでは、次のような考え方を意識しています。
・伸びを完成させない(途中でやめることで、明日も同じ動きを再開しやすくする)
・体の部位ごとにノルマを決めない(「今日は左肩3回」のような数字管理にしない)
・「ストレッチで柔らかくする」より、「今日はどの方向に何回ふれられたか」を重視する
自分の中ではこのやり方を「方向筋参加型ストレッチ」と名づけています。
柔軟性アップや症状の改善といった目的語ではなく、「今日はどの方向に何回ふれられたか」という体験の数だけを記録することで、評価よりも継続しやすさを優先する構造にしました。
筋トレを「筋力アップ」から「筋参加の出現数」を味わう時間へ
筋トレについても、「どれだけ重いものを何回持ち上げたか」ではなく、「今日は何回、筋肉と意識がつながった感覚を味わえたか」を指標にしています。
回数の多さより、「あ、ここが今働いているな」と感じられた瞬間の数を集めるイメージです。
たとえば、次のような“途中で止める筋トレ”をよく行っています。
・壁に両手をついて、体重を少し預けながら3秒だけ押して戻す
・500mlのペットボトルを肩より少し下まで持ち上げ、上げ切る手前で10秒キープする
どちらも、「筋肉と意識が結びついている感覚」が出た回数だけをメモし、それ以上の評価はしないようにしています。
同じ種目でも、「押し切る」「持ち上げ切る」必要はありません。
壁に体重を預けて押す途中でやめても、ペットボトルを持ち上げずに胸の前で保持するだけでも、「今日はここが参加してくれた」として1回分の筋参加としてカウントしています。
フォームの完成度や負荷の強さを採点しないのも、自分なりのルールです。
「途中で止めた」「持ち上げなかった」という行為であっても、筋肉が動作に参加した事実だけを丁寧に積み重ねるようにしています。
筋トレ全体に共通するマイルールは、次の3つです。
◎その日にやる種目は原則1つだけにする
◎毎回違う種目を選んでもよい(飽きやすさを前提にする)
◎「持ち上げる」より「保持する」動きを優先する
記録も、「今日はふくらはぎの筋参加1回、腕の筋参加2回」というように、できた回数ではなく「参加を感じられた回数」だけをメモしています。
この考え方には、次のような狙いがあります。
●毎回違う種目を選ぶことで、「体験できた動きのバリエーション」を増やす
●「ただ保持しているだけ」の時間も、筋参加としてきちんと認める
●フォームを完成させないことで、翌日以降も同じ動きを再開しやすくする
●回数を記録しても、「多い=偉い」と評価しない
具体的な1日のメモは、例えば次のようになります。
・壁押し:押し切る手前で止めた参加 ×3回
・ペットボトル保持:持ち上げずに胸の前で10秒キープ ×1回
・かかと浮かし:つま先立ちになる前の途中参加 ×5回
・ひざ伸ばし:完全に伸ばし切る前で止める参加 ×6回
・腕上げ:上げ切らず途中の位置で保持する参加 ×6回
あえて「筋力強化」を主語に置かないのは、「強くならなければならない」という圧力を弱めるためです。「今日も少しだけ体が参加してくれた」という事実を積み上げた結果として、あとから強さがついてくれば良い、という順番を大切にしています。
生活動作そのものを「運動フラグ」として拾い上げる
たとえば、「イスにゆっくり腰を下ろせたら1フラグ」「階段の手すりをしっかり握れたら1フラグ」といった具合に、強さや距離ではなく「今日も体が生活に関わった証」としてメモしています。これらは、わざわざ運動時間を作らなくても、すでに自分の生活の中で起きている動きです。
これらを「ストレッチや筋トレの代わりの運動」として見るのではなく、「身体がどれだけ生活に参加できているかを示すフラグ」として扱うようにしています。
同じ動作でも、ある日はスムーズにできて、別の日は少し重たく感じることがあり、その差を感じ取ること自体が自分の状態を知る手がかりになります。
たとえば、椅子に座るときに「どれくらいゆっくりコントロールできるか」、手すりを握るときに「どれくらい安心して体重を乗せられるか」など、強さの評価ではなく「参加そのものの手応え」に注目します。
日常の細かな動作に体の参加が途切れないよう意識して設計することで、自分なりのペースで身体機能を守る感覚につながっています。
具体的には、次のような形でメモしています。
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イスに座る:スロー着席参加 ×1回
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手すりを握る:握力ディスプレイ参加 ×1回
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買い物袋を持つ:保持エンゲージメント参加 ×1回
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ドアを押す:押力エクスペリエンス参加 ×1回
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「立つ・座る・握る・押す・置く・開ける・閉める」など、すべてを「今日、体が生活に関われた回数」として拾っています。
こうした記録は、「運動時間」としてまとめるのではなく、「日常の中で体がどれだけ関われたかのメモ」として、その日の手帳やスマホのメモアプリにさりげなく残しています。

1日の運動を「可変モデル」でとらえる
一般的な運動ルーティンは、「何時に始めて」「何分間続けるか」といった時間管理で設計されていることが多いと感じます。ただ、自分のように体調の波が大きいと、この形式は「守れなかった日」が積み上がりやすく、継続のハードルを上げてしまいました。
そこで現在は、1日の運動を次の3つに分けてカウントしています。
■歩行参加
■方向参加ストレッチ
■参加運動
たとえば「今日は歩行参加2回、方向参加4回、筋参加1回」といった形で合計し、その日の「運動の成功」を3つの参加出現数の合計として眺めます。
この「可変モデル」の良いところは、体調が良い日も悪い日も、その日の状態に合わせて参加回数を調整しやすい点です。
運動の質を「量」や「時間」ではなく、「小さな参加フラグがどれだけ連続したか」に置くことで、「今日はゼロだった」と自分を責める場面が減り、結果的に長く続けやすくなりました。
可変モデルのシンプルな公式
この可変モデルを、あえて公式にすると次のようになります。
運動成功 = 歩行参加の出現数 + 方向参加ストレッチの出現数 + 筋参加運動の出現数
3つの項目は、それぞれ次のような役割と可動範囲を持たせています。
歩行参加:連続で歩けなくても1回から何回でもOK(途中で中断してもカウント)
→ その日の体のステータス確認の役割
方向参加ストレッチ:ねじる・反る・伸びるの「手前」でOK(1〜7方向など、体が心地よい範囲)
→ 明日以降も同じ動きにつながる余白を残す役割
筋参加運動:持ち上げない保持・途中で止まる形でOK(1種目だけでも、毎回変えてもよい)
→ 筋肉と意識の接続体験を増やす役割
このモデルを回すときの注意点
この可変モデルを運用するときに意識しているポイントは、次のとおりです。
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運動を「完了させるべきタスク」にしない(途中で終えてもよい形を残す)
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何分やったかではなく、「参加体験が何回出現したか」だけを記録する
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ノルマや合否判定を作らない(「達成」「未達成」で自分を裁かない)
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目的を「体の強化」ではなく、「体の参加出現の総数」に置く
このまとめは、「〇〇回やればOK」という運動メニューではなく、「その日その日の体とどう接続し直すか」を考えるための接続設計モデルとして位置づけています。
読者の方それぞれの生活や体調に合わせて、項目や回数は自由にアレンジしていただく前提です。
「終わらせない運動」がもたらした変化
振り返ってみると、いちばん大きかった変化は「筋力がどれだけ戻ったか」よりも、「運動を終わらせない仕組み」を自分の中に持てたことでした。
数日空いてしまっても「ここで一度カンマを打っただけ」と考え直し、「今日は歩行フラグを1つだけ立ててみよう」と、小さな再参加から戻ってこられるようになりました。
その結果、「途中でやめてしまった自分」を責める時間が少しずつ減り、「今日はここからまたつなげればいい」と考える余白が心の中に生まれました。再開のハードルが下がったことで、体調の波があっても、ゼロか百かではない運動との付き合い方を続けやすくなっています。
また、以前は「中断=失敗」と感じていましたが、今は「中断=次の再参加へのきっかけ」と意味づけを変えられる場面が増えました。この小さな認識の変化が、長い目で見たときの心身のケアに向き合うモチベーションを支えてくれていると感じています。
まとめると、次のような変化を感じています。
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運動を「終わらせない構造」にしたことで、再開するときの心理的な重さが軽くなった
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失敗判定をやめたことで、途中での参加自体を成功として受け止められるようになった
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体調の波そのものより、「今日は何回再接続できたか」を見るメンタルに切り替わってきた
ここで紹介した可変モデルや「参加フラグ」といった考え方は、すべて自分自身の生活の中で試行錯誤してきた経験から生まれたものです。
医学的な効果や再発予防を保証するものではありませんので、体調や症状に不安がある場合は、必ず主治医やリハビリ専門職と相談しながら、ご自身に合うペースを探していただければと思います。
あらためて補足すると、本記事は医学的治療や健康改善効果、再発防止などを示唆・断言・保証するものではありません。
体調や症状に不安がある場合は、独自に判断せず、必ず医療機関や専門家へご相談ください。ここで書いた内容は、「日常設計をどう更新してきたか」という一人の体験記として読んでいただければ幸いです。
この記事を読んだ方へのメッセージ
この記事を読んでくださった方へ伝えたいのは、「運動をこなせる強さ」だけがすべてではない、ということです。
「また参加できる体の状態でいられるように、自分の生活をどう設計し直すか」という視点に切り替えると、できる日だけではなく、「再接続できた日」の総数が静かに増えていきます。
体験の内容は人それぞれですが、この視点そのものは、同じように体調の波と付き合う多くの方の生活にも応用できるのではないかと感じています。

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